アルゼンチンタンゴ初心者の方にとって、あこがれの場所は「ミロンガ」ではないでしょうか。大人の社交場ともいわれるミロンガは、アルゼンチンタンゴ愛好家が集まる貴重な場所。
ミロンガではどのような振る舞いが好まれるのでしょうか。そして、ミロンガの楽しみ方にはどのようなものがあるのでしょうか。
今回は、アルゼンチンタンゴ初心者のあなたに向けて、ミロンガにまつわる注意事項や、ミロンガをより堪能する方法についてご説明いたします。
この記事の内容
アルゼンチンタンゴには「ミロンガ」がふたつある?
アルゼンチンタンゴに興味がある方、始めたばかりの方は、「ミロンガ」という言葉に少し混乱させられるかもしれません。
「タンゴのステップ!初心者向けステップ解説」でも少し触れましたが、
- アルゼンチンタンゴのパーティーの「ミロンガ」
- 音楽のジャンルとしての「ミロンガ」
があります。
会話の中に「ミロンガ」という言葉が出てきたときは、どちらを指すのか聞き分けてください。
そもそも論ですが、「ミロンガに行きませんか」と誰かに誘われたのなら、もしくはネットなどで「〇〇ミロンガ~〇月〇日〇時スタート」などイベント告知を見たのなら、アルゼンチンタンゴのパーティーのことです。
アルゼンチンタンゴパーティー「ミロンガ」の基本的マナー5つ
ミロンガの特徴は、「人が密着すること」「多くの人が空間を共にすること」です。これに伴った基本的マナーを欠いてしまうと、それを主催するコミュニティに出入りしづらくなることさえあります。
ミロンガの基本的マナーには、次のようなものがあります。
マナー1.清潔な体と服装を心掛ける
まず、体や衣服の清潔を心掛けてください。体臭や口臭がしていないか確認しましょう。汗かき体質の方、歯の治療中の方は要注意です。
満員の電車やバスで、乗り合わせた人のニオイに困ったことはありませんか。体臭や口臭がする人のそばにいるのは、とても苦痛ですよね。
人間も“生物”です。人それぞれに何かしらのにおいがして当然ですが、ミロンガでは初対面の人ともアブラッソ(抱擁/ペアがホールドしあい、組むこと)するものですのでご注意を。この点から、「体も衣服も清潔であること」は、基本中の基本です。
特に夏場、汗を多くかくと自覚している方は要注意です。ミロンガ直前に着替える、汗拭きシートで体をぬぐう、制汗剤を使用するといった工夫をしましょう。夏場だけではありません。電車やバスでの移動が多い方は、冬場、コートの中で汗を多くかいていることもあるでしょう。
もし、ご自分で「何かにおう?」とわからないときは、親御さんやご兄弟など、親しい人に聞いてみて、”ニオイケア“に努めましょう。
マナー2.「香害」にも注意
強い香り、好みの分かれる香りはNGです。近年、香水や柔軟剤などの香りが強すぎ、周囲の人にいやな思いをさせてしまう「香害」も問題視されています。ミロンガでもそれは同じことです。
職場の同僚やお友達に、強い香りで「ちょっと…」という方はいらっしゃいませんか? ご本人はその香りに慣れて、ことさら何も感じていないのかもしれませんが、強い香りは周囲の人を困らせてしまうことがありますね。中には“香料アレルギー”で、咳込んでしまう方もいらっしゃいます。
しかしながら、体臭などを気にして何かしらの対策をしたいこともあるでしょう。そのようなときは、「ハーバル系やシトラス系、サボン系の、誰にでも好まれる香りを軽くまとう」ことにとどめてください。
もちろん、無臭であれば一番良いのですが…。少し難しいですね。
マナー3.誘い方・誘われ方での注意
もしも「次の曲で踊りませんか」とカベセオを受けたとき、いやなときは目をそらしてください。逆に、その誘いに応じる場合は、視線を合わせたまま笑顔で答える、うなずいて答えるようにします。断るとき、応じるときは、それぞれ以下のように対応しましょう。
カベセオとは
踊りたい相手に視線を送り、「あなたと踊りたい」という意思を伝える手段。男女ともに「断るとき/断られるとき」の気まずさを回避する方法のひとつ。
誘いを断るとき
もし、カベセオで“カップル成立”しなかったとしましょう。それでも誘う側が強引に声をかけてきたときは、次のように答えてください。
- 「少し疲れました。今休んでいますので、後でまた誘ってください」
- 「次に踊るお相手が決まっています」
こう答えると、お相手も納得してくれるでしょう。
しかしながら、この後、すぐに違う人の誘いに応じてしまうと、先に誘ってくれた人を「個人的に嫌っている」と、誘った本人はもとより、周りの人も理解するでしょう。このトラブルを回避するためには、「一旦お断りしたら、ひとつのタンダが終わるまで誰とも踊らない」ようにします。
★タンダとは★
アルゼンチンタンゴミュージックをジャンル分けし、3~4曲をひとまとめにしたもの。「タンゴ」「ワルツ」「ミロンガ」を区別するための工夫で、タンダとタンダの間には、タンゴとは全く無縁の音楽がかけられる。
ミロンガに「ペア」で訪れている人を誘うとき
ご夫婦やカップルでミロンガに参加している方もいらっしゃるはずです。その片方の女性にカベセオし、「OK」をもらえたとしても、一緒に来ている男性がそばにいれば「お誘いしてもよいですか?」と一言声をかけましょう。さらに気持ちの良い誘い方となります。
お友達と出かけるときや、デートを想定してみてください。いくらお友達や恋人と同じ趣味を持っている人が集まる場でも、ふたりの間に見知らぬ他の人が入り込むのは失礼、と感じられるのでは?せめて一言声掛けをするのがマナーというものですよね。それと同じことです。
もちろん、既に次に踊る人が決まっているときや、中には一緒に来ているパートナー以外とは踊らない方もいますので、無理な“割り込み行為”は完全なNG行為です。
マナー4.踊るときの注意点
ミロンガでは、いくつものペアがフロアを共有し、そして、反時計回りに進みますので、全体の流れを乱さないことがとても大切です。
そのような配慮の中でも、特に気を付けたいのが、次の点です。
流れを止めない
何組、何十組のペアがいても、きれいな円を描くことが“美徳”とされるミロンガ。「1カ所にとどまって得意のステップを繰り返し続ける」などで、流れを止めてしまうのは究極のNG行為です。
追い抜かないが基本、しかし致し方なく追い抜くときは
流れを止めないことが良くないことなら、追い抜きもまたNGです。せっかくそこに集うみんなで礼儀正しく、美しい雰囲気を楽しんでいるのに、せっかちな行動はケガを招いてしまうこととなるからです。
しかしながら、初心者の場合、テンポの速い曲について行けない、または覚えたてのステップが全体の流れの速さに沿っていないこともあります。
ですが、どうでしょう。みんなで楽しい場を作ろうとしているのに、フロアを「得意げに独り占め」しているような人がいたなら…。これは例外として追い抜きOKです。そのままその場を占領されてしまうと、全員が迷惑をこうむるのは目に見えていますよね。
“ミロンガ初心者”と、“得意げに独り占め”とは全く別物ですが、いずれにせよフロアの雰囲気が乱れてしまうことは事実です。そんなときは、「ぶつからないように配慮しながらさっと追い抜いてしまう」のが有効です。
もし、仮にぶつかったとしたなら、「ぶつかった側のリーダーが小声でお詫びする」ことでその場を丸く収めます。
ミロンガ初心者は「ふたつ目の流れ」を作ってみる
ミロンガ初心者が、いざフロアへとくりだすとき、「ふたつ目の流れ」を作ることをおすすめします。
主たる流れ(多くの人が連なる円)の内側に、もうひとつ流れを作れるだけのスペースはないでしょうか。もしふたつ目の流れを作れそうならそこを利用してください。
円を乱すこととぶつかること、転倒、ケガを気にしすぎると、何もできなくなりますよね。女性ならば慣れたリーダー(男性)に誘ってもらえさえすれば、不安もなく踊れるはずです。しかしながら、リーダー(男性)が初心者の場合、いつまでたってもミロンガの輪に入れないことも想像できませんか。
ふたつ目の流れを作る場合、多少描く円の弧がきつくなり、踊りにくくなるかもしれませんが、他の人に迷惑をかけないという点では大きなメリットがあります。リーダー(男性)は、思い切りも大切です。
ひとつのタンダを踊りきる
ひとつのタンダは、3~4曲で作られています。ひとつのタンダを同じ人と踊りきってください。途中で「ありがとうございました」などと言ってお相手と離れてしまうと、それは「もうあなたとは踊りたくありません」という意思表示となってしまいます。
初めてのデートのことを思い浮かべてください。「どんな人かわからないし、1時間だけお茶でも」と一旦約束したのに、途中で帰られてしまうと絶望してしまいませんか。それと同じようなものです。
まずは、ひとつのタンダを踊り切りましょう。タンダが終わればコルティナが待っています。そのときにその方と離れればいいのですから、無理に途中で離れなくても大丈夫。
★コルティナ(コルティーナ)とは★
タンダとタンダを区切るための時間。アルゼンチンタンゴとは全く関係ないジャンルの曲(クラシックやジャズ、ポップスなど)をかけ、タンダの終わりを知らせる。踊っていた全員が一度フロアを空け、仕切りなおす意味もある。
しかし、踊っている最中に他のペアと接触してケガをした、お相手に足を踏まれたなどの“実害”があった、急に気分が悪くなったなど、致し方ない場合は例外です。
マナー5.踊り終えたときには「エスコート」
ひとつのタンダを踊り終えたら、男性は女性をもとの席に連れて戻ってあげてください。もし、混み合っていてエスコートが難しい場合、「ありがとう」「楽しかった」など、感謝の言葉を述べて、席の方へ送り出すようにしましょう。
「大人の社交場」ともいえるミロンガです。これほど、
- 男性は男性らしく
- 女性は女性らしく
の振る舞いはないはず。特に日本女性は「レディーファースト」を経験することはあまりありません。まさに、夢のような瞬間かもしれませんね。
エスコートまでがひとつの区切り、と心得ておけば、お互いに「気持ちのいい人」という印象を抱いてもらえるはずです。
アルゼンチンタンゴのミロンガをさらに楽しむための工夫
ミロンガは、ひとつのコミュニティといってもよいでしょう。コミュニティによって「空気感」は異なります。多くのミロンガを“はしご”しても、それぞれで楽しみを見つけるためには、次のような工夫をしてみてください。
ミロンガでは音楽の「タンダ」を理解し、楽しむ
ミロンガに出向くことがあれば、音楽を、タンダを聴き、楽しみましょう。同じ曲でも楽団によってアレンジは多くあり、「さっきの曲にこんなアレンジもあったんだ」という発見ができます。
上でも少し触れた「タンダ」ですが、これはミロンガのために流すタンゴの音楽をうまく種類分けするための工夫です。アルゼンチンタンゴダンスに慣れてきたら、「タンゴが好き」「ワルツが苦手」「ミロンガは今少し」といった好みや上達度が自分でわかってきます。
タンゴ→コルティナ→ミロンガ→コルティナ→ワルツ…のように繰り返しますが、この順番がわかってくれば、「自分の得意なワルツのときに踊ろう」と、他の音楽のときに休んでいられるようになります。
まずは、そのミロンガで採用されているタンダの順番を理解することに努めてください。たとえばミロンガが苦手でも、座って他の人のミロンガのステップを観察して学ぶ、音楽を聴いて楽しむことができます。
得意な曲のタンダが近づいてきたら、「あの人と踊りたい」とカベセオを送ってください。タンダが始まる前にカップル成立することが望ましくはありますが、タンダの途中でもOKです。円の流れの“切れ目”を狙って流れに乗れば大丈夫。
音楽すべてを楽しむ
ミロンガでは、ダンスのベースとなる音楽すべてを楽しみ切るつもりでいてください。実際、踊れないけれどミロンガの雰囲気が好き、音楽を聴くのが好き、という方もいます。
たとえば、呑めないのに、呑む場が好きという方がいらっしゃいますね。そんな方は、「楽しそうにしている人を見るのが好き」「自分も呑んでいるような気分になれるのが好き」などとおっしゃいます。
踊れないのにミロンガに行きたい…そのような方も”アルゼンチンタンゴ界“にはいらっしゃるのです。アルゼンチンタンゴ初心者であっても、同じように「音楽すべてを楽しむ=その場を楽しむ」ことが大事です。まだミロンガで踊るのは怖い、という方ならなおさらのこと。
同じ曲でもいくつものアレンジがあること、踊っている人たちがどのように音楽を解釈して表現しているかを観察することは、楽しみでもあり、学びともなるものです。
タンゴの音楽に関しては、次の記事も参考になさってください。
サリダだけでもチャレンジしてみる
ミロンガに行こう、と決意したら、早めに会場入りしましょう。スタート時間より早めに会場に入ることができれば、数人に声をかけて自己紹介をし、「ミロンガは初めてです」「もしサリダだけでよかったら踊っていただけませんか」と“根回し”しておくのはいかがでしょう。アルゼンチンタンゴ歴の長い方であれば、気持ちよく応じてくれるはずです。
★サリダ(サリーダ)とは★
アルゼンチンタンゴの基本的ステップとして多くの人が最初に教えられるもの。拍の取り方次第で、サリダだけでも1曲踊りきることが可能。
ミロンガ慣れしている多くの方の中に入ると、緊張するのは当然のことです。しかしながら、考えてもみてください。どんなに慣れている方にでも、「はじめて」はあるものです。
私自身、「ミロンガデビュー」は、東京都内の比較的ご高齢な方が多いコミュニティでした。ありがたいことに、「わざわざ大分からお越しくださった方がいます」とオープニングの際にマイクでご紹介いただきましたので、それはもうご親切にしていただきました。
「サリダしかできません」と毎回お断りを入れなくてはならないほど、多くの男性にお誘いをいただきましたが、「みんな“はじめて”はあるから」と、ゆとりあるサリダでご対応いただきました。この経験があったからこそ、「ミロンガが怖い」という思いをせずに済みました。
タンゴのステップに関しては、次の記事もおすすめです。
ドレスコードがあれば、よりドレスアップを
ミロンガは、大人の場。ドレスアップという非日常感を味わうのも楽しみのひとつです。
ミロンガによっては、ドレスコードが定められていることがあります。ドレスコードといっても、さほどハードルは高くありません。
たとえば、
- 水玉模様
- 赤
- 花
などのようにです。
着るもののどこかにドレスコードに則ったものを取り入れればよいだけです。
ときに、「女性はチャイナドレス」と少し厳しめのドレスコードもあります。
たとえば、上の場合の「花」というのは、男性にとって難しいと思われるかもしれませんが、スーツのフラワーホール(社章をつけるところ)に、花をかたどったブローチ状のアクセサリー(ブートニエール)をつけるのもアリです。
女性なら、花柄のスカーフやイヤリングなどで工夫をしましょう。髪に生花をあしらうのもOK。「特別感満載」ですね。
ドレスコードは、その場の一体感を醸成する役割を担っていますが、私たち“踊り手”にとって「非日常感」を味わうのにも一役買ってくれます。ちょっぴりドレスアップして出かけるのも、ミロンガの楽しみ方のひとつです。
ミロンガ情報(タンゴイベント情報)発見法
さて、あなたの気持ちがいよいよ固まって、「ミロンガ見に行ってみたい」と思ったとき、どのようにすればいいのでしょう?
答えは意外に簡単です。
気になるアルゼンチンタンゴ教室があれば、そこで定期的にミロンガが開催されていないか聞いてみましょう。
また、日ごろ利用しているSNSでミロンガ情報を探してみるのもいい方法です。
「タンゴイベント情報」
有志によりまとめられたミロンガカレンダーもいくつかありますので、ご紹介しましょう。
もしも思ったようにミロンガ情報が手に入らないときは、「〇〇タンゴ(〇には都道府県名を入れる) ミロンガ」で検索してみてください。アルゼンチンタンゴの世界では、エリアでタンゴ情報をやりとりすることがあります。
たとえば
・新潟タンゴ
・熊本タンゴ
・福岡タンゴ
のようにです。
特にどこの教室、と区別せず、「そのエリアのアルゼンチンタンゴコミュニティ」といったニュアンスで情報をやり取りすることも一般的です。
まとめ
アルゼンチンタンゴ初心者にとって、「ミロンガ」は目標とするもののひとつかもしれません。しかし、さほど深く考えずに「見に行く」「音楽を聴きに行く」も大いにアリです。
特に関東近辺では多くのミロンガが毎日のように開かれていますので、どこが自分に合っているかを見つけるのも必要なことかもしれませんね。
ときには、バンド演奏付き、プロダンサーのデモンストレーション付き、アルゼンチンタンゴ専門DJがバックアップする「特別なミロンガ」もあります。
踊るだけでなく、音楽やその場の雰囲気を味わうのがミロンガです。事情があって、私も最近はもっぱら「聴く人」になっていますが、それもOK、と覚えていただけると嬉しいです。
コメント