タンゴ…最近、アルゼンチンタンゴの名曲や、アルゼンチンタンゴ風の音楽がドラマやCMのBGMに使われていたりすることが増えています。それと同時に、タンゴというダンスそのものをテレビで目にすることも多くなりました。
なぜ、タンゴは近年注目されるようになったのでしょうか。
また、タンゴはどのようにして生まれたのでしょうか。
タンゴに興味のある方、初心者の方にもわかりやすくご説明しますね。ちょっとした小ネタもご用意していますので、お楽しみください。
この記事の内容
タンゴダンスの歴史は、アルゼンチンのボカ地区から
アルゼンチンのブエノスアイレス、その代表的な港「ボカ地区」でタンゴは生まれました。国際貿易で大きな商いをしていた当時のブエノスアイレスには、国外から多くの人たちが集まっていました。
その貿易で大きな富を築き潤ったアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスは「南米のパリ」と呼ばれ、メイン通りの「7月9日通り(独立記念日からその名がついた)」は通りを横断するのが大変なほど広いうえ、通り沿いには、豪華な劇場も多く、著名な観光地となっています。
しかし、当時、貿易に携わった労働者たちはほとんどが海外からやってきた男性でした。アフリカやヨーロッパから持ち込まれた音楽が融合し、タンゴという音楽のジャンルが確立しました。
夜な夜な男たちは酒をあおり、音楽に合わせて踊るようになりました。まるでゲームを楽しむように始まったのでしょうか、ひとりではなく、二人一組のペアで踊るスタイルを確立させたのがタンゴとされています。
タンゴは、男性同士でのペアダンスが最初だった、娼婦相手に踊るペアダンスが最初だったという、ふたつの説があります。いずれにせよ、「二人一組」で踊るダンスの始まりです。
彼らの鬱憤はどれだけだったのか…タンゴの名曲のタイトルにもそれが表れています。
「la puñalada(ラ・プニャラダ/刃物騒ぎ)」
女性の取り合いをしている男性同士の“決闘”のようすを描いた曲。最終的に片方の男性は心臓を一突きにされ死んでしまいます。男性に対し、女性の数が圧倒的に少なかったことから、このような騒ぎも多かったでしょう。
ちなみに、2009年に、タンゴはユネスコの無形文化遺産リストに登録されました。移民たちと先住民との文化や習慣が融合し誕生したタンゴが、今もなお音楽/ダンスともに人気が広がっていることを認められた結果です。
参考:Tango│intangible cultural heritage
タンゴ発祥の地ボカ地区は、あのアニメにも登場!
「母を訪ねて三千里」というアニメを見たことはありませんか。私も見ていましたが、「マルコ、可哀そう」「大変だね…」程度にしか受け取っていませんでした。
が…マルコが目指していたのは、アルゼンチン。マルコがイタリアの港町から乗船を許可されたその船がついたのは、ボカの港。ボカで母の行方情報を集めているとき、ボカ地区同様に栄えていたバイアブランカ方面にいるのではないかと知り、そこへ向かうマルコ。
不思議なことに、タンゴの名曲のひとつに「Bahía Blanca(バイアブランカ/白い湾の意」があります。
「母を訪ねて三千里」のマルコの旅は1880年代のイタリアから始まっています。ちょうどタンゴの音楽やダンスの基礎ができ始めた頃でした。いろいろな人生、ドラマが誕生した時期です。
タンゴの音楽については、次の記事も参考にしてください。
「アルゼンチンタンゴ」「タンゴ」―どう呼び分けるの?
実は、「タンゴ」といっても、ふたつの種類に分けられます。ひとつは「アルゼンチンタンゴ」、もうひとつは「タンゴ(社交ダンス)」です。なぜ、わざわざ呼び分けているのでしょう。それは、上でも触れた通りの歴史がそうさせているのです。
アルゼンチンで生まれたタンゴ。その頃はわざわざアルゼンチンタンゴとは呼んでいなかったでしょう。その後、タンゴはヨーロッパに渡り、社交界で踊られるダンスに含まれるようになりました。これが社交ダンスのタンゴの基礎です。
特にパリでは人気を博し、1995年、アルゼンチンのフランシスコ・カナロ楽団がツアーでパリを訪れた際には、新聞紙面の見出しに「パリのカナロ」という文字が躍ったといいます。それを記念し、アルゼンチンタンゴの「パリのカナロ」という名曲も誕生したほどです。
つまり、
- アルゼンチンタンゴ=現地の庶民の楽しみとしてのダンス
- タンゴ=上流階級がアルゼンチンタンゴに触れ、社交界でのダンスに取り入れたもの
という違いがあるのです。
それは、ダンスのスタイルにも明確に表れています。基本的な組み方も、悲しみや喜びの共有である抱擁(アブラッソ)を基本とするのがアルゼンチンタンゴ、華やかさを表現するため女性が背をそらす社交ダンスのタンゴと、大きく異なります。
また、どちらかというと「見せるダンス」に近い社交ダンスのタンゴ、「ダンスそのものを楽しむ」アルゼンチンタンゴという違いもあるでしょう。
それぞれに良さがありますが、私がアルゼンチンタンゴに惹かれてやまないのは、「リードとフォロワーの関係」です。ある程度決まったステップを理解できれば踊れる社交ダンスのタンゴと違い、アルゼンチンタンゴはリーダー(男性)のリード次第で生まれる即興性に面白みがあるのです。
リーダーは今そこで流れている曲をしっかり聞き、どこでどう女性をリードしようか考えながら歩を進めます。フォロワー(女性)は、リードを受け止め、「この人はこう踊らせたいのだな」と判断、その希望に沿えるように移動します。
これこそ“ゲーム性”の高さです。初めて踊る相手のスキルを無言のうちに理解しあい、互いに無理をさせないように配慮し、相手が初心者のときにはアブラッソそのものを楽しむのも一興、なのです。
「アルゼンチンタンゴのダンスって難しい?」と思っている方へ
アルゼンチンタンゴは、リーダーがある程度しっかりリードできれば、フォロワーは踊ることができます。言い換えれば、しっかりリードできるまで、しっかりリードを読み取ることができるまで時間がかかるかもしれません。
ですが、人に見せるためのダンスではありませんので、アブラッソそのものが心地よくさえあれば、基本中の基本「カミナンド(単に歩くだけ)」でも不思議な気持ちよさがあります。これを「サロンタンゴ」といいます。
タンゴのステップについては、次の記事でも書いています。
もしも「アルゼンチンタンゴに興味はあるけれど、難しそう」「私には無理」と思っているのならば、あなたが見ているのは「ステージタンゴ」でしょう。きらびやかな衣装をまとったダンサーが、手足をフルに使って大きなアクションで、ときにアクロバティックな動きをすることがあります。これは、ダンスを見せることを生業とするタンゴダンサー、もしくはタンゴ講師レベルの人たちにしかできないことですので、もちろん「難しい」としかいえません。
形さえある程度覚えてしまえば踊れる社交ダンスのタンゴは、「美しく見せる」まで高めることが必要。これは、アルゼンチンタンゴの「ステージタンゴ」に通じるものがあります。
一度、「サロンタンゴ」、もしくは「タンゴ サロン」で動画を検索してみてください。本来のアルゼンチンタンゴは、このサロンスタイルです。フロアをタンゴ仲間と“共有”し、静かにその場の空気を味わうのが大人のたしなみ、といったところでしょうか。
サロンタンゴはとても品のある踊り方です。
では、2016年にアルゼンチンで開かれた競技会の「サロン部門」の動画をご紹介しましょう。
確かにプロダンサーばかりですので、「美しすぎる!」と感じますが…。
案外と「おとなしい」「柔らかい」印象を受けませんか?
動画の中には、ニアミスしそうになるシーンも何度か見受けられますが、ライバルといえどもフロアを共有する“仲間”。
リーダーである男性は、周囲の状況を見ながら、ぶつかることをうまく避けていますね。
サロンタンゴの基礎さえ身に着ければ、日本国内や海外旅行に行った先の「ミロンガ(アルゼンチンタンゴを楽しむ場)」で楽しく過ごすことができます。アルゼンチンタンゴは世界に愛好家がいます。毎晩、世界のあちらこちらでミロンガが開かれていますので、言葉は通じなくても楽しみがひとつ増えるという“おまけ”が大きいのも、アルゼンチンタンゴの魅力です。
まとめ
今回は、アルゼンチンタンゴというダンスの原点や、その頃なにが起きていたのか、社交ダンスのタンゴとの違いなどをご説明しました。
同じタンゴでも、どこで繁栄したかで「タンゴ」「アルゼンチンタンゴ」と呼び名が変わり、スタイルも変わってきました。どちらのタンゴであろうと、元は同じ。しかし、自分の楽しみのために踊るのか、人に見せるために踊るのかの違いはありそうです。
男性であろうと女性であろうと、アルゼンチンタンゴに臨むとき、必要なのは「思いやり」です。まずは、どこかお近くで開かれているミロンガを見学されてはいかがでしょう。そこで温かさや親切心といった人間らしい空気を感じることができれば、それはあなたに合った場所です。
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